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カズオ・イシグロ氏、表現への恫喝についての警鐘

日本でもあいちトリエンナーレ表現の不自由展で国民的な議論となった、芸術の独立性。
また、若いアーチスト(に限らず全般的に)蔓延する、忖度表現やキャンセルカルチャー(キャンセルカルチャー(cancel culture)とは、個人や組織、思想などのある一側面や一要素だけを取り上げて問題視し、その存在すべてを否定するかのように非難すること。文化的なボイコットの一つ。)などについて、イギリス(日本生まれ)のノーベル文学賞受賞者カズオ・イシグロ氏が、警鐘を鳴らしたインタビュー記事がとても素晴らしかったので転載します。



若い作家はインターネットでの攻撃や全否定を恐れ、自主検閲しているのではないか。日本生まれの著名な英作家サー・カズオ・イシグロ(66)がBBCのインタビューで、懸念を示した。


「日の名残り」、「わたしを離さないで」などの作品で知られ、2017年にノーベル文学賞を受賞しているサー・カズオは、インターネットなどで世間に広がる攻撃的で否定的な空気を恐れる、「恐れの風潮」の中で、書きたいことを書かない人がいると警鐘を鳴らした。


同氏は若い作家たちについて、「オンラインで正体不明の暴徒にリンチされ、人生を台無しにされる」ことを懸念しているのかもしれないと述べた。


イシグロ氏はまた、地位が確立されていない作家が、特定の視点から書くことや身近に存在しないような人物を登場させることを避け、自主検閲をしているように思うと懸念を表明。


イシグロ氏は2017年にノーベル賞の受賞が発表された際、自宅の庭で即席の記者会見を開いた
イシグロ氏は、「自分のキャリアは不安定で、評判はさらに不安定なのだから、リスクを冒したくない」と思っても無理もない若い作家のことが、特に心配だと述べた。


最近ではソーシャルメディアなどで、言論の自由をめぐる多数の議論が相次いでいる。作家の中には「全否定」されたり、著書のボイコットを呼びかけられたりする人も出ている。標的となった著名作家には、J・K・ローリング氏やジュリー・バーチル氏、ジャニーン・カミンズ氏らがいる。


2019年にナイトの称号を受け「サー・カズオ」となったイシグロ氏は、自分自身は「全否定」されることを心配していないと話した。


「私はかなり確立された作家なので、恵まれた、比較的守られている地位にあると思う」、「私はもうそれなりの年だし、一定の評価も得ている。幻想かもしれないが、自分の立場は守られていると思う」などと、イシグロ氏は話した。


イシグロ氏は作家生活40年で8作の小説を書き、短編集を1つ出している。批評家らからは称賛され、商業的にも成功している。


「日の名残り」は1989年に英ブッカー賞を獲得。俳優のサー・アンソニー・ホプキンズとデイム・エマ・トンプソンの主演で映画化され、米アカデミー賞の8部門で候補となった。



「わたしを離さないで」の映画キャストやディレクターらと並んだイシグロ氏(左)
悲痛なディストピア小説「わたしを離さないで」も、俳優のキーラ・ナイトリー、キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド各氏が共演して映画になった。


日本の長崎で生まれ、5歳の時に英イングランドに移住したイシグロ氏は、自身にとっては「恐れるような」題材や視点は存在しないと強調した。


「小説家はどんな視点からだろうと自由に書くべきだし、あらゆる視点を示すべきだ」


「私は初期のころから、自分とかなり違った人の視点から書いてきた。最初の小説は、女性の視点で書かれたものだ」


娘の自殺で失った日本人女性を描いた「遠い山なみの光」は、1982年に出版されると、すぐに大きな反響を呼んだ。


「もっと開かれた議論」



イシグロ氏はBBCのインタビューで、作家が自分と異なる背景の登場人物を作り出し、表現することの是非をめぐる議論に触れ、「的を射た意見もある」と指摘。「自分の作品にそういう人を登場させるからには、作家はよく勉強して、調べて、敬意をもって表現する義務がある」と述べた。


そして、「自分の身の回りにいない人たちには、礼節をもって接する」ことが必要だとした。


一方で、「その対象について自分が十分に知るのは無理だ、公平に書くことはできないと思ったら、自分は怖くなって、作品で扱うのをためらうと思う。けれども私は、自分がその気になればかなりのことは学べるはずだと、自分についてそこそこ傲慢だったりする」と、難しいテーマにも挑戦する姿勢を見せた。


「キャンセル・カルチャー(特定の対象を全否定する風潮)」や言論の自由については、イシグロ氏は「もっと開かれた議論」が必要だと訴えた。


同氏の新著「クララとお日さま」は2日に発売される。太陽光エネルギーで動き、人間のように振る舞うロボットが、10代少女と「人工親友」になる物語だ。


AIには「楽観的」



小説の場面となる未来では、ロボットが自転車と同じくらい普及し、遺伝子編集も当たり前のことになっている。


「まったくのファンタジーというわけでもない」とイシグロ氏は話した。「想像で作り出したものは特にない」。


「家族を乗っ取り、さらに仲間と一緒に世界を乗っ取るような、腹黒い裏切りロボットについて書いたわけではないので。そうした物語とはまったく違う」


イシグロ氏は、人工知能(AI)が「ものすごい利益をもたらす」と「非常に明るい気持ちをもっているし、楽観視している」と話す。ただし、不安もある。


「AIプログラムがいずれ、私を泣かせるような小説を書けるようになったら、それは何かとんでもなく大事な一線を越えることになる。AIが人間の感情を理解し、共感能力をもつようになったことを意味するので」


「AIにそれができれば、例えば政治活動も、これまでのデータに基づいた戦略より、もっともっと強力で効果的にできることになる」


「実際にAIは、次の大きなアイデア、共産主義やナチズム、資本主義といったアイデアを作り出すこともできるだろう(中略)もしそうなったら、その状況を人間が制御するのはとても大変だ。それを私は心配している」


その時点で自分はロボットに仕事を奪われているはずだし、そのころ世界は「もっと大変な問題を抱えていて、それどころではない」はずだと、イシグロ氏は話した。


(英語記事 Ishiguro: Young authors 'fear online lynch mob')


自分が描く権利のないことを描くことに対するためらいはいつもある。
「その対象について自分が十分に知るのは無理だ、公平に書くことはできないと思ったら、自分は怖くなって、作品で扱うのをためらうと思う。けれども私は、自分がその気になればかなりのことは学べるはずだと、自分についてそこそこ傲慢だったりする」
表現を行うものは、そこそこの傲慢が必要だ。


余談ですが、『Never Let Me Go』を映画館で見たとき、全く事前情報なしで(Dさんが良さそうだというので二人して見に行った)見たのだが、まるで日本の人が描いたストーリーのようだと感じて、日本共同制作?原作が日本人?と聞いたが、全く違った。
臓器提供のために育てられる養殖人間。そこに源種(創造主?)への愛と憧憬が絡む。
のちに、イギリスの作家、カズオ・イシグロ氏の原作で、あると知った。彼は生まれは日本でも、英国人だ。ただ、英国も日本と似た社会構造がある(少なくともアメリカより近い)のかもしれないし、キリスト教の土壌、ナチス支配の記憶はより濃く染み付いている。
日本でもドラマで、綾瀬はるかさんの主演で作られたものを見た。映画とは、別の感じがしたが、これはこれで、とても良かった。綾瀬はるかさんはどんな役にも体当たり、自分についたイメージを壊すことを恐れない。これも表現をしていく人間にとって、とても勇気の要ることだし大切なことだ。他人の目で自分を見ることは大切であるが、しかし、自分の目を忘れては本末転倒だ。


遺伝子レベルやAIに主題を求めるイシグロ氏の次作「クララとお日さま」楽しみだ。


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