密接な関係にある他国から

アメリカと日本の社会、文化、日常感覚など、下から目線でつなげてみる。

トランプ支持者の気持ち

朝日新聞が、中部のトランプ支持者への取材を行った良記事。

初めてドナルド・トランプ(70)の集会を取材したのはちょうど1年前、テキサス州ボーモントだった。
連載:「トランプ王国」を行く
 飛行機で乗り合わせた米メディアのトランプ番記者が、空港から会場まで車に乗せてくれた。「お前、トランプをどう思う?」
 私は「見ている分にはおもしろいが、すぐに脱落すると思う」と答えた。

 すると番記者は「分かってないな。トランプの遊説場所を地図に落としたことあるか? ほとんど田舎だ。都会に来ても集会の場所はたいてい郊外だ。自分の訴えが誰に響くのかを理解しているんだ」。
 番記者はアクセルを踏み込みながら、続けた。
 「ハッキリ言おう。彼が共和党候補になる。支持者の熱気が違う。今日の集会を見れば、驚くぞ」
 会場に着くと大勢の支持者が立ち上がって声援を送っていた。掲げるプラカードに、こう書かれていた。
 「サイレント・マジョリティー(声なき多数派)はトランプを支持する」
 集会後、支持者に話を聞くと、せきを切ったように不満を吐き出した。
 「スペイン語が当たり前になっていることが不気味」と元教師のマックウィリアムス(59)は言った。食品店に並ぶ商品のスペイン語表示が増えているという。元国境警備隊員のウェイド(55)は「国境は抜け穴ばかり。トランプがやっと一大争点にしてくれた」と語った。
 支持者に共通するのは、細かい政策など気にせず、単純なメッセージに共鳴していること。理屈よりも情念が勝っていた。私は頭を殴られたようだった。
 それから1年間。かつて栄えた鉄鋼業や製造業が廃れ、失業率が高く、若者の人口流出も激しい「ラストベルト(さびついた地帯)」といわれる、オハイオ州やペンシルベニア州などを歩いた。そこは、トランプの支持が強い「トランプ王国」だった。(金成隆一)
■色あせる「アメリカン・ドリーム」
 ドアをノックすると、ぶっきらぼうな返事が飛んできた。「開いてるぞ。靴も脱がなくていいぞ」
 3月25日、オハイオ州ウォーレン。ジョセフ・シュローデン(62)は自宅で、おなかを突き出してソファで横になっていた。地元の製鉄所で40年近く働いた。
 テレビからトランプのだみ声が流れる。「米国は負けてばかりだ。最後に勝ったのはいつだ?」「メキシコ国境に、誰も見たことのない美しい壁を造る」
 シュローデンは笑っている。「本音を言う正直な男だ。プロの政治家じゃない。気に入ったよ」
  もう少し支持の理由を教えてと頼むと、政治家への不信感を爆発させた。
 「大型ハンマーも削岩機も知らない、ショベルの裏と表の区別もつかない政治家に俺らの何がわかる? 年金の受給年齢を引き上げようとする政治家は許さない。ヤツらは長生きするだろうが、俺の体は重労働でボロボロだ」
 15歳から製鉄所の食堂で働き、高卒後は最もきつい溶鉱炉に入った。トランプが、社会保障を守ると言ったことがうれしかった。
 「溶鉱炉の同僚の半分は早死にした。政治家なんて選挙前だけ握手してキスして、当選後は大口献金者の言いなり。信用できない」
 街の衰退も腹立たしい。閉鎖された製鋼所などの名前を五つ、私のノートに書き込んだ。「3万人の雇用が消えた。人間は仕事がなきゃ幸せになれない。日本人も同じだろ、なあ?」
 労働組合員で民主党の地区委員も務めたが、トランプの雇用対策を期待し、初めて共和党に移った。
 学歴がなくても、まじめに働けば、子どもは親の世代より豊かになれる。明日の暮らしは今日よりも楽になる。米国の勤労精神を支えた「アメリカン・ドリーム」が色あせている。米国の実質賃金は50年ほどほとんど上がっていない。
 7月。オハイオ州で共和党全国大会が開かれた。同州トランブル郡でトランプ支持者の代表を務めるデイナ・カズマーク(38)は「産業政策の失政の被害地域の一人」として招かれ、華やかな党大会を初めて見た。「異端児」が党の正式な候補者になった。
 カズマークは4年前、職と弟を同時に失った。弟は失業中でヘロイン中毒だった。喫茶店とホテル清掃の仕事を掛け持ちしたが、精神的にきつい日々を送った。そんなとき、トランプの立候補演説を聞いた。「米国を再び偉大にする」という力強いメッセージに引き付けられた。寝る時間も削って応援に没頭した。「トランプは『忘れられた人々』の声になると約束した。衰退した地元を活性化してくれるはず」
 10月1日。同州ヤングスタウンのバーで、失業中のジノ・ジオッポ(32)が悔しがっていた。「8カ月間で142社に応募したが、職が見つからない。街を出るしかないんだ」
 1月に年収の半減を通告され、9年間勤めたガス採掘会社を自主退職した。
 民主党を支持する両親に育てられ、州立大を2007年に卒業後、就職した。人生が暗転したのは、国際的なエネルギー価格の低迷がきっかけだった。なすすべがなかった。
 生まれて初めて共和党候補を支持した。「民主党のオバマ外交は弱腰だ。トランプなら強い米国を取り戻してくれるはずだ」
 エネルギー産業が盛況だった当時を振り返る。日当は最高で700ドル(7万円)に達した。日給1500ドルという先輩もいた。
 「労働者にカネが入れば街が潤う。1泊79ドルのホテルが改装して300ドルになった。みんな笑顔だった」
 取材の最後にジオッポは言った。「でも俺はビル・クリントン(元大統領)は好きだぞ。アーカンソーの貧困家庭からはい出てきた男だ。ヒラリー(・クリントン民主党候補)に言っておいてくれ。『ビルを副大統領にするなら、支持してやる』ってな」
 

別のバーでは、溶接工のトマス・ビガリーノ(42)が携帯電話に保存されている作業現場の写真を見せながら、自分の仕事を説明した。天然ガスの大型パイプラインを屋外で溶接する仕事だ。「毎晩、疲労で手を握ることすらできなくなる。それでも、かつてのような中産階級になれない。掛け金が払えなくて、42歳で人生初の無保険になった」と酒をあおる。
 

州立大で経営学の学位を取得したが「ちっともいかせていない」。学費の借金は今も8万ドル。毎月700ドルの返済に苦しむ。「トランプに何を期待するか? 米国を再び偉大にしてくれりゃ、それでいいんだ」


抗議デモ映像に「負け犬!」
 「米大統領にトランプ氏」。トランプ勝利を伝える記事を書き終え、私は9日、再びオハイオ州ジラードに入った。何度も通ったバーに行くと、支持者がトランプの勝利に酔いしれていた。
 ところが、店内のテレビに「反トランプの抗議デモ」の映像が流れると空気が一変した。「負け犬!」「家に帰れ!」。彼らの願いが通じ、トランプ大統領は誕生するが、不満と不安は消えていない。
 

溶接工のトマス・ビガリーノ(42)は顔を真っ赤にして言った。「デモが起きているのはニューヨークやロサンゼルスなど大都市ばかりだ」
 トマスは私のノートに米国地図を描き始めた。
 「東海岸は政治家、大企業、銀行、マスコミで、西海岸はハリウッド俳優やシリコンバレー。どっちもリベラルの民主党支持者で、物価の高い街で夜ごとパーティーで遊んでいる。テレビが伝えるのは、エスタブリッシュメント(既得権層)のことばかりだ」
 そう言いながら地図の両岸にバッテンを書き、民主党カラーの青で塗りつぶした。今度は、共和党カラーである赤のペンに持ち替え、地図の残りを真っ赤に染め上げた。
 「大陸の真ん中が真の米国だ。鉄を作り、食糧を育て、石炭や天然ガスを掘る。両手を汚し、汗を流して働くのは俺たち労働者。今回は真ん中の勝利だ」
 深呼吸して続けた。
 「俺たちが本物の米国人だ。エスタブリッシュメントは外国に旅行するが、ここには来ない。自分たちが俺たちより賢いと思っているが、現実を知らないのは、こいつらの方だ」
 すると、トマスの双子の兄フランクが来て「この地図、ちょっと違うな」と言い、ノートに何やら描き加え始めた。
 「トランプが美しい壁を造るんだ」。国境に壁が描かれていた。
     
 大統領選で米国は、トランプ氏が勝った中央部(赤)と、民主党のクリントン氏が勝った西海岸や北東部(青)に大きく二分された。激戦州のオハイオ州内を見ても、州都コロンバスや都市部クリーブランド、大学のあるアセンズではクリントン氏が勝ったが、それ以外の郊外ではトランプ氏の圧勝だった。(金成隆一)


手に豆して働いてきた彼らは救われなくてはならない。誰もそれをバカにしたりはしない。ただ、知ることを拒否し、他を排除し、自分と違う人間、知らない人間を憎しみの対象にしてしまうこと、その感情をむき出しにし、単純に煽る大金持ちにシンパシーを感じてしまうのはいささか短慮が過ぎるというだけだ。アメリカ合衆国の舵取りは国際的なバランスを考慮しなければならない複雑なものである。しかも大企業優先で社会保障を削る、小さな政府を標榜する共和党がトランプの周りを固めているのだ。
彼らにとって民主社会主義などは侵略者と同義語かもしれないが、真に彼らを救えるのはバーニー・サンダースだったのかもしれない。



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