密接な関係にある他国から

アメリカと日本の社会、文化、日常感覚など、下から目線でつなげてみる。

日米開戦前交渉ハルノートに見る現政権との危機的類似 しかしModus Vivendiは先人の知恵

リテラの記事

無謀な玉砕命令で多くの仲間を面前で失い、自身も片腕をなくし、戦争で消耗品のように死んでいった仲間の思いを背負って、漫画を描き続けた水木しげる氏。新しいアニメバージョンであっても氏の原作を元に作られたアニメに、”反日”とは、どっちが反日かわからない主張をする、なんちゃって愛国者たちには、いつも驚かされる。


しかし、今回気になったその中のお一方の「日本が一方的にアメリカを攻めたみたいな誤解を生む大東亜戦争語りたいならハルノートから説明させろ」というツイートに興味を持ち、ハルノートについて調べた。


なんだか、たくさんの簡単説明ハルノートがネットにあふれているが、それらは、都合のいいところを取り上げて曲解、あるいは書いた人がきちんと原文を(翻訳でさえ)読んでいないのではないか?と思われる内容のものがほとんどで、これではデマ拡散、幼稚な歴史修正主義以外の何物でもない。


ハル・ノートとは1941年当時の米国務長官コーデル・ハルによる、非公式の日本に対する東アジア紛争回避の交渉のノートである。Wikipediaは個人の主観の入ったもので100%信頼するのは問題があるとはいえ、このハル・ノートに関しては、時系列の背景も綿密に調べられていて、当時の米側のスタンスにも符合し、信頼に値すると思います。
ご一読を。(ワタクシなど二度ほど頭がショートいたしましたが、とても勉強になりました)


ヨーロッパの窮状を踏まえ危機感を持って、重い腰を上げたルーズベルト大統領は、再び、アジアを含む世界大戦になる懸念に、日本に、三国同盟からの脱退、他国への侵略を行わないように、また中国からの撤退、撤兵を約束させ、経済制裁解除を望み、コーデル・ハルが責任者で交渉した(ものすごく端折った説明なので、詳しくはWikipediaで)


すでにこの段階で、日本政府の、戦争の目的が、アジアのヨーロッパ支配からの解放などでなく、ヨーロッパの覇権に取って代わり、日本はその地位に就く野望のもとに行われた侵略戦争であると、当時の軍事政権も、計画していたことが見て取れる。


ハルノートは、2項(1項1条4原則2条5原則、2項1条及び2条10原則)の中に
20のPrinciple(原則・要綱)で構成されている。対訳は当時の言葉でやや分かりづらくはあるし、原文との照らし合わせで、一部、あえてどちらとも取れるような日本語に当てはめている箇所もあり、当時から超訳は常套手段であったことがうかがえる。しかし、この原則を日本が遵守していたら、アジア諸国での数々の虐殺、自国兵士へのも責任な進行玉砕はなかったはずだ。


当時の野村大使との事前会談における、ハル四原則は、;1すべての国の領土と主権尊重
2他国への内政不干渉を原則とすること3通商上の機会均等を含む平等の原則を守ること
4平和的手段によって変更される場合を除き太平洋の現状維持

ハルノート全文はこちら
対訳 ハル・ノート


興味深かったのが、この”日米交渉11月26日米側提案ーハルノート”に付随したハル長官の口頭陳述。これを見ると口先三寸で自分に有利にものを捻じ曲げようとする当時の日本政府は、国際社会の歩調が見えず、理解もできていない、現政権のやり方とオーバーラップする。


対訳がないので訳してみました。
Oral Strictly confidential(November 26, 1941) ハル長官による(口頭陳述)


The representatives of the Government of the United States and of the Government of Japan have been carrying on during the past several months informal and exploratory conversations for the purpose of arriving at a settlement if possible of questions relating to the entire Pacific area based upon the principles of peace, law and order and fair dealing among nations.
米国政府と日本国政府の代表は、上記の原則に基づいて太平洋地域全体に関する質問を平和、法と秩序、国家間の公正な取引において、可能な限り和解に到着させるために、ここ数ヶ月の非公式かつ探索的な会話を続けてきた
These principles include the principle of inviolability of territorial integrity and sovereignty of each and all nations; the principle of non-interference in the internal affairs of other countries; the principle of equality, including equality of commercial opportunity and treatment; and the principle of reliance upon international cooperation and conciliation for the prevention and pacific settlement of controversies and for improvement of international conditions by peaceful methods and processes.
これらの原則には、独立した全ての国の、領土の保全と主権不可侵の原則が含まれる。 他国の内政に不干渉の原則・商業機会と治療の平等を含む平等の原則・ 紛争の防止と太平洋地域和解、平和的な方法とそのプロセスによる国際情勢の改善のための国際協力と調和への信頼の原則。
It is believed that in our discussions some progress has been made in reference to the general principles which constitute the basis of a peaceful settlement covering the entire Pacific area. 
我々の議論は、太平洋地域全体をカバーする平和的解決の基礎となる”一般原則”を参考にして、いくつかの進展があったと考えられる。

Recently the Japanese Ambassador has stated that the Japanese Government is desirous of continuing the conversations directed toward a comprehensive and peaceful settlement of the Pacific area; that it would be helpful toward creating an atmosphere favorable to the successful outcome of the conversations if a temporary modus vivendi could be agreed upon to be in effect while the conversations looking to peaceful settlement in the Pacific were continuing. 
最近、日本国大使は、日本政府が太平洋地域の包括的で平和的な解決のための会話を継続したいと言い始めた。 太平洋における平和的解決を望んでいる会話が継続している間に暫定的に平和的共存を可能にする手段であり、彼らの望む成功に好影響を与える雰囲気を作り出すことに役立つだろうと大使は主張した。
<興味深かったのが、の本大使が、ラテン語である、”modus vivendi”を使った部分である。modus vivendiとは、『紛争当事者が無期限に、または最終的な解決に達するまで、平和的に共存することを可能にする手配または合意。』の意味でだ。この場合は、アメリカ側の提案に乗りたくない日本が、時間稼ぎを目論んでいると受け取れる。>
On November 20 the Japanese Ambassador communicated to the Secretary of State proposals in regard to temporary measure to be taken respectively by the Government of Japan and by the Government of the United States, which measures are understood to have been designed to accomplish the purposes above indicated.
11月20日、日本国大使は国務長官に、日本国政府と米国政府がそれぞれ行う一時的措置に関し、上記の目的を達成するために策定されたものと理解されている、と伝えてきた
The Government of the United States most earnestly desires to contribute to the promotion and maintenance of peace and stability in the Pacific area, and to afford every opportunity for the continuance of discussion with the Japanese Government directed toward working out a broad-gauge program of peace throughout the Pacific area. 
The proposals which were presented by the Japanese Ambassador on November 20 contain some features which, in the opinion of this Government, conflict with the fundamental principles which form a part of the general settlement under consideration and to which each Government has declared that it is committed. 
米国政府は、太平洋地域の平和と安定の促進と維持に貢献し、日本政府との継続的な議論の機会を提供し、幅広い平和プログラムの実施に向けて努力したいと願っている太平洋地域全体において、11月20日に日本大使が提出した日本政府の提案は、各国政府が合意したと宣言した、検討されたきた全般的和解の基本原則と矛盾する。
The Government of the United States believes that the adoption of such proposals would not be likely to contribute to the ultimate objectives of ensuring peace under law, order and justice in the Pacific area, and it suggests that further effort be made to resolve our divergences of view in regard to the practical application of the fundamental principles already mentioned.
米国政府は、このような提案の採択は、太平洋地域の法律、秩序および正義の下での平和を確保するという究極の目的には貢献しないと考えており、すでに述べた基本原則の実用化に関して、我々の見解の相違を解決するためのさらなる努力が必要であることを(日本側に)示唆した。


ラテン語まで駆使して、平和の名まで掲げ、なんとかだまくらかそうとしていても、ハル国務長官はお見通し。日本がいかに世界の困ったちゃん化して行ったことがこの口述から読み取れる。


Wikipediaによると、アメリカからのこの提案を受けて、大騒ぎの日本軍事政府。自分たちの要望書をアメリカ側の提言と勘違いしてぬか喜びなど、国際位感覚の異常な欠如と視野狭窄の現れである。


初期段階の日本側草案に関して、
この草案は日米双方が修正を加えた上で、4月9日に一応の完成を見た。これを受け取ったハル国務長官は3日間にわたって国務省極東部と検討したが、「提案の大部分は血気の日本帝国主義者が望むようなものばかりであった」とその内容に失望したという。。しかし、ハルは「一部には全然承諾できない点もあるけれども、そのまま受け入れることのできる点、また修正も加えて同意できる点もある」という結論を下し、これを交渉の糸口にすることとした(byWiki)


”提案の大部分は血気の日本帝国主義者が望むようなものばかり”は今の自民党改憲草案も同じ。変わってないね。しかも相手の話を聞かず、いいように解釈。


いいように解釈は世間知らずに由来する。
日本側からの、草案による日米諒解案
日米両国は、相互に隣接する太平洋地域の強国であることを承認し、共同の努力により太平洋の平和を樹立し、友好的諒解を速やかに達成する。


欧州戦争に対する態度として、日本は三国同盟の目的が、欧州戦争拡大を防止することにあり、その軍事上の義務は、ドイツが、現にこの戦争に参加していない国によって、積極的に攻撃された場合のみ発動することを声明する。一方米国の欧州戦争に対する態度は、もっぱら自国の福祉と安全とを防衛するという見地によってのみ決することを声明する。


日中戦争について、米国大統領が次の条件を容認し、日本政府がこれを保証したときは、大統領は蒋介石政権に和平を勧告する。A.中国の独立。 B.日中間の協定による日本軍の中国撤兵。 C.中国領土非併合。 D.非賠償。 E.中国の門戸開放方針の復活。 F.蒋介石政権と汪兆銘政権の合流。 G.中国への日本の集団的移民の自制。 H.満州国の承認。


太平洋平和維持のため、相互に他を脅威する海空力の配備をせず、日本は米国の希望に応じ、自国船舶を太平洋に就役させる。会談妥結後、両国は儀礼的に艦隊を派遣し合い、太平洋の平和到来を祝す。


両国間通商の確保、日米通商航海条約の復活。米国よりの金クレジットの供与。
日本の南西太平洋における発展は武力に訴えず、平和的手段によってのみ行われるという保障のもとに、米国は日本の石油・ゴム・錫・ニッケルなど重要資源の獲得に協力する。
太平洋の政治的安定に関し両国は、A.太平洋地域に対する欧州諸国の進出を容認しない。 

B.両国はフィリピンの独立を保障。 C.日本人移民は他国民と同等無差別の待遇を得る。


以上の点について両国が合意すれば、ハワイにおいてルーズベルト-近衛会談を行う。

よくこんな身勝手な、草案を出せたものだ。悪い意味での意識高い系世間知らず国家。
しかも、自己都合でいいように勘違い。


4月18日、日米諒解案の電報が日本に届いた。しかし、ここで重大な誤解が生じ、近衛首相は諒解案を「アメリカの提案」と誤解して受けとった。『近衛手記』には、その夜、緊急に大本営政府連絡懇談会を招集し、「米国の提案を議題にして協議した」とあり、「この米国案を受諾することは支那事変処理の最捷径である」との記述もある。近衛は明らかに諒解案の「交渉試案」という意味を履き違え、「米国案」と説明したとみられる。諒解案には東條英機陸相も武藤軍務局長も、岡敬純軍務局長も「大へんなハシャギ方の歓びであった」というが]、「主義上賛成」の電報を打とうという動きは抑えられ、返事は松岡外相の帰国を待ってからとなった。なお、『近衛手記』によれば、「大体受諾すべしとの論に傾いた」が、一方でドイツとの信義を強調する意見があったとのことである。
東條や武藤は、諒解案を泥沼化した支那事変解決の機会と捉えて乗り気となり、陸軍省としては「ともかく交渉開始に同意」と決定した[61]。また陸軍参謀本部においても、「三国同盟の精神に背馳せざる限度に於いて対米国交調整に任ずべき大体の方向」で意見が一致し、最終的にはこの線に沿って陸海軍間の合意がなった。
ただし、中国からの撤兵問題については、交渉に前向きな軍務局でさえ撤兵に反対の立場であり、日本人の経済活動保護の観点から駐兵は必要と考えていたことは、交渉の前途に影を落とすことになった。


1941時点で、煮詰まっていた日本政府。貧すれば鈍するの言葉どうり。
彼らの、人間本来の姿とは無関係な意味のない優越意識、異常なプライド、その拠り所の国粋主義、自分たちの見たいものだけ見て精神論で乗り切ろうとする浅はかさ。どれだけ歴史を捻じ曲げ、当時の日本のトップを愛国の軍神に祭り上げても、その実、見込みも状況分析も甘い思い込みの戦争に突き進む愚かな狂信者たちだったことがわかる。


昔は、”天皇陛下”は神様で、それをいただく人には逆らってはいけない、という認識があっただろうが、70年以上、民主主義社会に生き、教育を受け、平和憲法を神経質なほどに守ってきたのは、日本国民の大きな後悔、二度と狂信者に引きづられたくないという反省の元にあっての努力だった。しかし何故か、また同じ状況がきているのに、引きずられる。


もはや、神としての天皇を支配のツールにすることはできない。護憲平和主義天皇自体が拒否している。時期天皇も同じ思いだろう。


ネトウヨと呼ばれる愛国者の方々も、大好きな安倍さんのワイフ(閣議決定私人)を”皇室よりも神々しく、神に近い”などとお友達がSNSに発信するのには寛容で、日本兵が海外で戦っていたという、彼らの反発のトリガーである”侵略”とさえ言っていない目玉親父にの突っかかる。どういう思考回路、どういう戦前愛好だ。”皇室よりも神々しく”戦前なら不敬罪だ。


ともあれ、勉強の機会を与えていただいたことに感謝しつつ、お手軽な情報を鵜呑みにして、大威張りに水戸黄門の印籠化するのは、如何なものか、と言添えたい。


知は力なり、しかし、無知は暴力なり。


追記:Modus Vivendiは、日本のような小国がこれを上手に使うのはいいことだと思う。
実際、戦後、日本国憲法の不戦平和主義を盾に派兵要請、戦争参加を回避したり、田中角栄・周恩来も、尖閣問題をModus Vivendiしてきた。これは先人の知恵と思う。

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