密接な関係にある他国から

アメリカと日本の社会、文化、日常感覚など、下から目線でつなげてみる。

映画『わたしを離さないで』にみる、誰かのために役立つ命という洗脳 全体主義・軍国教育の恐ろしさ

リテラが、ネタバレ過敏症、というかネタバレ粛清について書いている記事。
その主旨とは関係ないのだが、日系イギリス人作家カズオ・イシグロ氏によりNever Let Me Go(わたしを離さないで)について、書きたくなった。


リテラ記事
その一例が、カズオ・イシグロの小説『わたしを離さないで』(早川書房)。これは、人間の臓器移植のために作られたクローン人間を描いた近未来SFなのだが、日本でのプロモーションにあたってそういう紹介のされ方はなかった。ネタバレになると思われていたからだ。
 確かに、物語の主人公であり語り手がクローン人間であることは作品冒頭では明かされておらず、読み進めるうちに徐々にそのことがわかってくる構造にはなっているが、それは明らかに『わたしを離さないで』という物語の核心ではない。
 にも関わらず、ネタバレ恐怖という風潮のためなのか、主人公たちがクローン人間であるということは、口外禁止のネタバレであるかのようにレビューなどでは触れられず、どころか、その事実に驚くことが物語上最大のポイントであるかのように、流通消費されていった。
 ただ、先般から述べている通り、この作品は近未来SFの形をとってはいるが、「実は主人公はクローンだった!」ということに驚くのが主題のエンタテインメント作品ではない。
 この作品におけるクローン人間は「いずれ必ず死ぬことが決まっている生を生きる存在」であり、そういった「諦念のなかで生きる」ということを描くのがこの小説の主題だ。「いずれ必ず死ぬことが決まっている生を生きる存在」……そう、これはつまりふつうの人間だって同じなのだ。諦念のなかで生きるということは、老執事を描いた『日の名残り』をはじめカズオ・イシグロが繰り返し描いてきたテーマでもある。


この映画は、夫Dさんがすごくいい評判の映画があるというので、見に行った。作者の素性などは、全く知らず、見終わって、「すごく、日本みたいだなぁ」と思った。
後で原作者が日系人だと知った。もちろん、「諦念のなかで生きる」ということを描くのがこの作者の共通の主題であるのかもしれないが、このNever Let Me Go(わたしを離さないで)は、単に「いずれ必ず死ぬことが決まっている生を生きる存在」を描いたという以上に、誰かのために死ぬことが役目であり自身価値であり誇りであるという教育を受けて育ったクローンたちの、抗しきれない制度の中で、それでも目覚めてゆく自分という独立した意識、その自我の覚醒が成熟を見ることなく諦観に飲み込まれる哀れさ、悲しさ描いていて、どうしても第二次世界大戦下の、日本人、特に若者たちの姿とダブった。


第三国で生まれた2世・3世は往々にして自分の両親、祖父母、いや、祖先の国に強い関心を持ち、第二のアイデンティティーとして、歴史、文化などを深く考察する人が少なくない。ドイツ系のDさんは、ナチスドイツの所業はもとより、その台頭の経緯、そこへの一般の市民の積極的消極的関与についてよく調べている。自分の先祖がアメリカに移住せず、自分が当時のドイツに生まれたいたら(ありえないのだが)、自分は抵抗できただろうか?抵抗できずに関与したら、その後どう生きて行けただろうか、と考える。私も同じことをよく考える。イシグロ氏にとっても、最も興味を持つ日本人としてのネガティブなアイデンティティーが”カミカゼ”に代表される大戦下の軍国思想教育であってもおかしくない。


自分は自分の”オリジナル”のための生きる臓器ファームであり、それが使命であり、名誉である。”オリジナル”は、憧れで、親のような思慕の対象であり、また神のごとき不可侵の存在である。
彼らを良き臓器ファームに育てる教育機関もある。国のために命を投げ出す行為を称賛し、引き合えに英霊となるという”名誉”を与え、非戦闘員にまで、日本人の誇りを押し付け一億総玉砕を唱えた国家主義・軍国教育。それが今、安倍政権のもと、復活されようとしている。


戦争による死だけではない。国力アップのため、世界の中心で、安倍が咲き誇るため、死ぬまで働かせる環境を設定し、国の使う税金を消費するなと、社会保障、年金を削り、医療費負担を引き上げ、生活保護を恥と攻撃し、働けないものは無用として排除し、女性は子供を産む、出産ファームに位置づけ、かつ低賃金雑用と、性処理業務を割り当て、ものを考えず、ものを言わず、自分のために生きるのは身勝手と罪悪感を植えつけ、国のために命をささげることを賛美する。日本は既に、Never Let Me Goのクローンと人間の格差社会そのものになっている。


この、恐ろしく、悲しく、美しい物語を、今一度、見て考えて欲しい。

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