密接な関係にある他国から

アメリカと日本の社会、文化、日常感覚など、下から目線でつなげてみる。

蒙昧と頑迷の人々; トランプ支持者はオバマをなぜ「憎悪する」か?

東洋経済に、トランプ大統領誕生の原動力とされる、アメリカの貧しい頑迷な保守層について、理解するとても良い記事が出ていたので、転載します。
この分析は安倍氏の見え透いた嘘を信じる人々の心理にも有事ていると思います。


注釈として文中に出てくる、ヒルビリー:18世紀に、ヨーロッパから、年季奉公(10年働けば、アメリカの土地と独立資金を与える、というような)でやってきた貧しい階層の人々ホワイトスレーブと呼ばれ、値段の高い黒人奴隷よりひどい待遇で使われ、南北戦争前後に逃亡し、山中に身を潜めた。ヒルビリーはそうした人々の子孫で小規模に農業従事者、機械工や工場労働者、炭鉱労働者、で外界と孤立した生活を続けて来たため文化的向上心や、生地の外に出て行く野心を嫌う。保守的でクリスチャン原理主義の人が多い。


ホワイトトラッシュ(“白いゴミ”):低所得、低い教育、早すぎる結婚(妊娠)飲酒。ドラッグなどで自堕落になったり、日雇いや臨時労働者であり、その日暮らしのような生活に堕してしまう人々。トレーラーに住んでいたり、リスを撃って食したり、という生活を送る。銃は日用品。


黒人出身ながら、完璧な英語と輝かしい学歴、そしてよき父の顔を持つ
オバマ前大統領の存在は、アメリカ社会で“白いゴミ”と呼ばれる白人労働者
たちを大いに刺激した(撮影:JMPA)


「黒人」「アジア人」「白人」――。民族意識の強いアメリカ社会では、肌の色の違いに基づく分類が大きな意味を持つ。
ただ、白人のすべてが「WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)」であるわけではない。


18世紀に移民としてやってきたスコッツ=アイリッシュ系の白人たちは、歴史的に貧困の中に生きてきた労働者階級だ。奴隷経済時代には日雇い労働者として働き、近年は機械工や工場労働者として生計を立てている。彼らは、アメリカ社会で“ヒルビリー(田舎者)”と呼ばれている。こうした白人労働者たちの存在を無視して、ドナルド・トランプ大統領誕生の背景を読み解くことはできない。


アメリカの繁栄から取り残されたヒルビリーとは、いったいどのような人たちなのか。なぜ彼らは、トランプを支持し、オバマを目の敵にするのか。『ヒルビリー・エレジー』著者であり、自身もヒルビリー出身ながらイェール大学のロースクールを修了し、現在はシリコンバレーで投資会社の社長を務めるJ.D.ヴァンス氏が語る。
※第1回はこちら:「トランプを支持する『負け犬白人』たちの正体」


投票権を持つ白人保守層の約3分の1が、バラク・オバマ前大統領はイスラム教徒だと信じている。ある調査では、保守層の32%が、オバマは外国生まれだと回答し、19%は、どこで生まれたかわからないと答えた。つまり、白人保守層の過半数が、オバマがアメリカ人であることすら疑っているのである。


実際に私は、知人や遠い親類が、オバマについて、イスラム原理主義者とつながっているとか、裏切り者の売国奴であるとか、遠く離れた世界の端で生まれたなどと語るのを、たびたび耳にした。


黒人オバマと白人労働者の境遇は、天と地ほど違う


ただ、“アメリカ人と認められていない”オバマと私が大人になるまでに接してきた白人労働者階級“ヒルビリー”たちとを比べると、そこには天と地ほどの差がある。


オバマのニュートラルでなまりのない美しいアクセントは聞き慣れないもので、完璧すぎる学歴は、恐怖すら感じさせる。大都会のシカゴに住み、現代のアメリカにおける能力主義は、自分のためにあるという自信を基に、立身出世を果たしてきた。もちろん、オバマの人生にも、私たちと同じような逆境は存在し、それを自ら乗り越えてきたのだろう。しかしそれは、私たちが彼を知るはるか前の話だ。


オバマ大統領が現れたのは、私が育った地域の住民の多くが、アメリカの能力主義は自分たちのためにあるのではないと思い始めた頃だった。自分たちの生活がうまくいっていないことには誰もが気づいていた。死因が伏せられた10代の若者の死亡記事が、連日、新聞に掲載され(要するに薬物の過剰摂取が原因だった)、自分の娘は、無一文の怠け者と時間を無駄に過ごしている。


オバマの存在は、私が育ったミドルタウンの住民の心の奥底にある不安を刺激した。オバマはよい父親だが、私たちは違う。オバマはスーツを着て仕事をするが、私たちが着るのはオーバーオールだ(それも、運よく仕事にありつけたとしての話だ)。オバマの妻は、子どもたちに与えてはいけない食べ物について、注意を呼びかける。彼女の主張は間違っていない。正しいと知っているからなおのこと、私たちは彼女を嫌うのだ。


白人の労働者階層に広がる、このような怒りや冷笑癖(シニシズム)については、誤解に基づくものだと多くの人に批判されている。確かに、一部の陰謀主義者や過激な人たちが、オバマの信仰や先祖などについて、ありとあらゆる方法で、無意味なことを書き立てているだけなのだ。


そして、まともな報道機関はすべて、あの辛口で知られるFOXニュースも含めて、オバマにはアメリカの市民権があり、正常な宗教観の持ち主であると絶えず伝えている。私の地元の知り合いたちも、主要なメディアがオバマについてどのような報道をしているかはよく知っている。


白人労働者は「まっとう」なニュースなど信じない


しかし、彼らはそれを信じないのである。そもそも、アメリカの有権者のうち、メディアが「とても信頼できる」と考えているのは、全体の6%にすぎない。多くの国民は、アメリカ民主主義の砦であるはずの報道の自由を、たわごとにすぎないと考えている。


報道機関はほとんど信用されておらず、インターネットの世界を席巻する陰謀論については何のチェックも働かない。「オバマは私たちの国を破壊しようとしている海外からの侵略者だ」「メディアの報道はうそばかり」「白人労働者の多くは、アメリカに関する最悪のシナリオを信じている」……。


以下に、私が友人や親類から受け取ったメールの一部を公開しよう。


・9・11同時多発テロ事件から10年目に、テロに関する〝未解決の疑問〟がテーマのドキュメンタリー番組が制作された。ラジオ番組のホスト役を務め、右翼として知られるアレックス・ジョーンズはその番組のなかで、あの惨劇の裏にはアメリカ政府の関与があったことを示唆した。
・オバマが推進する医療保険制度改革「オバマケア」の下では、患者の体内にマイクロチップを埋め込むことを強制しているという内容のチェーンメールが出回った。この話には宗教的な含みがあるため、波紋はさらに広がった。聖書には、終末が訪れたときに「獣の刻印」が背教の証しとして使われると記されている。多くの人が、この獣の刻印は、実は電子デバイスなのではないかと考えていた。実際、複数の友人が、ソーシャルメディアを使ってオバマケアへの注意を呼びかけた。
・ニュースサイト「ワールド・ネット・デイリー」に、ニュータウンで起きた銃乱射事件は、世論を銃規制の方向に誘導するために、政府が引き起こしたものだという趣旨の社説が掲載された。
・複数のウェブサイトに、オバマがまもなく戒厳令を発動し、3期連続での在任を可能にするだろうとの情報が載った。


同じような話は、ほかにもいくらでもある。実際にどれだけの人が、こういう話を信じているかはわからない。ただ、私たちのコミュニティの3分の1の人が、明確な証拠があるにもかかわらず、前大統領の出自を疑っているとするならば、ほかの陰謀説も、思ったより浸透している可能性が高いだろう。


これは自由至上主義のリバタリアンが、政府の方針に疑問を投げかけるというような、健全な民主主義のプロセスとは異なり、社会制度そのものに対する根強い不信感によるものだ。しかも、この不信感は、社会のなかでだんだんと勢いづいている。


夜のニュース番組は信用できない。政治家も信用できない。よい人生への入り口であるはずの大学も、私たちの不利になるように仕組まれている。仕事はない。何も信じられず、社会に貢献することもできない。


社会心理学者は、集団で共有された信念が、一人ひとりの行動に大きな影響を与えることを明らかにしている。一生懸命働いて目標を達成することが、自分たちの利益になるという考えが集団内で共有されている場合、集団内の一人ひとりの作業効率は、ほかの条件はまったく同じで各自がバラバラに働いたときよりも高くなる。理由は簡単だ。努力が実を結ぶとわかっていれば頑張れるが、やってもいい結果に結びつかないと思っていれば、誰もやらない。


また同様に、何かに失敗したときにも、同じようなことが起こる。失敗の責任を自分以外の人に押し付けるようになるのだ。
敗者であるのは、自分ではなく政府のせいだ


私はミドルタウンのバーで会った古い知り合いから、早起きするのがつらいから、最近仕事を辞めたと聞かされたことがある。その後、彼がフェイスブックに「オバマエコノミー」への不満と、自分の人生へのその影響について投稿したのを目にした。


オバマエコノミーが多くの人に影響を与えたことは否定しないが、彼がそのなかに含まれないことは明らかだ。いまの状態は、彼自身の行動の結果である。生活を向上させたいのなら、よい選択をするしかない。だが、よい選択をするためには、自分自身に厳しい批判の目を向けざるをえない環境に身を置く必要がある。白人の労働者階層には、自分たちの問題を政府や社会のせいにする傾向が強く、しかもそれは日増しに強まっている。


現代の保守主義者(私もそのひとりだ)たちは、保守主義者のなかで最大の割合を占める層が抱える問題点に対処できていない、という現実がここにはある。


保守主義者たちの言動は、社会への参加を促すのではなく、ある種の疎外感をあおる。結果として、ミドルタウンの多くの住民から、やる気を奪っているのである。


私は、一部の友人が社会的な成功を収める一方で、ミドルタウンの黒い誘惑につかまり、早すぎる結婚、薬物依存症、投獄といった、最悪の状態に陥る友人もたくさん見てきた。将来の成功や失敗は、「自分自身の未来をどのように思い描いているか」にかかっている。ところが、「敗者であることは、自分の責任ではなく、政府のせいだ」という考え方が広まりつつあるのだ。


たとえば私の父は、懸命に働くことの価値を決して否定するような人ではなかったが、それでも、生活を向上させるはっきりとした道のいくつかを、信用していなかった。


私がイェール大学のロースクールに進学すると知ったとき、父は私に、「黒人かリベラルのふりをしたのか」と言ったものだった。白人労働者の将来に対する期待値は、これほどまでに低いのである。こうした態度が広まっていることを考えれば、生活をよくするために働こうという人が少なくなっても、なんら不思議ではない。

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち
ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち
光文社


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